酒モン ゲットだぜ!!

  酒を飲んでいて遭遇・捕獲した酔っぱらいのモンスター達、略して「酒モン」について綴っていくブログ

酒を飲んでいて遭遇したモンスター達について綴っていくブログです。 長編・短編・色々とございます。

閉店する店のママのおばはん

今回は兵庫県明石市で捕獲した

酒モン(酒を飲んでて捕獲したモンスター)の

話だ。

 

以前、「閉店する店のマスターのおっさん」と

いう回で、明日で閉店する店に

たまたま入ってしまった話を

書いたが、今回はもっとすごくて

「今日で閉店する店」に入った話だ。

 

その日、僕は神戸での仕事で

イヤなことが色々あって、

無性に飲みたくなり、

明石駅に降り立った。

 

行く店、行く店が満員で、

4軒くらい回って、

ようやくビルの一階にある居酒屋に入れた。

その店には客は誰もおらず、

店主と思しきおばはんが

カウンターの席に座り、テレビを見ながら、

ジョッキでビールを飲んでいた。

 

おばはんは、店に入ってきた僕を見つけると

こちらを向き、ものすごく愛想悪く

 「いらっしゃい」

と言った。

僕が、

1人ですけどいいですか?

と聞くと、

過去に家族全員を憲兵に惨殺されて

人間の持つ全ての感情を

失ってしまったんですか?

と聞きたくなるくらい、淡々とした口調で

「どうぞ」

と答えた。

 

僕は、カウンター席に座り、

とりあえず生ビールを頼み、

店内の壁に貼られたメニューを見た。

とりあえず、餃子とおつまみ盛り合わせを

頼むと、おばはんは、

「おすすめは鉄板焼やねんけど。」

と、権力争いに破れて、悪い宦官に

20年くらい幽閉されてたんですか?

と聞きたくなるくらい、無感情で言う。

せっかくなので、僕は

あ、じゃあそれも、と返答した。

 

しばらくすると、大きな皿に盛られた

おつまみの盛り合わせと、

ステーキ用の鉄板が運ばれてきた。

その鉄板の上には、輪切りにされたちくわが

怖いくらいに整然と並べられていて、

僕は一瞬目を疑った。

 

鉄板焼って肉とちゃうんかい?

ちくわの輪切りを焼くって!

 

ただ、完全にぼったくりかと思われた

この鉄板焼きだが、

油で焼かれて、焦げ目が付いたちくわを、

付いていたちょっと辛いたれで食べると

なかなか美味かった。

そうこうしているうちに、

餃子も運ばれてきたのだが、

おばはんは料理が終わると

またカウンター席に座って

ビールを飲みだした。

 

すぐ横で飲んでいるのに、

おばはんとは何の会話もなく、

約10分くらいが過ぎた頃、

おばはんはおもむろに立ち上がり、

店内の壁に貼ってあった

メニューが書かれた紙をはがしだした。

そして、先ほどまで座っていた席に戻ると、

いきなりハサミでそのメニューを

切り刻み始めた。

さすがにこれはツッコまない訳にもいかず、

どうしたんですか?

と聞いてみた。するとおばはんは、

「今日でこの店、閉店やねん。」

と、子ザルとはぐれてしまった

ニホンザルのお母さんのように

悲しげな目で答えた。

 

いや、百歩譲って、

今日で閉店やったとしても、

まだ店内に客がいて飲んでるのに、

目の前でいきなりメニューを

切りだすのはおかしいやろ!

まだ追加で頼むかもしれんし。

 

そう思ったが、

めったに見られない光景を見ていることが

嬉しかったので、そのまま放置して

飲むことにした。

おばはんは立ち上がって

壁のメニューをはがし、

席に戻り、それをハサミで切り刻む、

ということを繰り返した。

はじめのうちはちょっとオモロいな、と思って

その光景を酒の肴にしていたのだが、 

シーンとした店内に響く、

「ジョキッ! ジョキッ!」

というハサミの音を

ずっと聞いているうちに

山姥に襲われる昔話のことが頭に浮かび、

ものすごく怖くなったので、

店を出ることにした。

 

お勘定を済ませて帰ろうとしていると、

おばはんに呼び止められた。

「今日でこの店も最後やから、

    これ持っていき。」

 

おばはんは、少しだけ微笑み、

僕に卓上用のセロテープ台と

未使用のセロテープ数個を渡してきた。

かなり重そうやし、見るからに

油でベタベタだったので、内心は

いらんわ!と思ったのだが、

明らかにそう言えない空気だったので、

とりあえずもらっておいた。

その後、駅のゴミ箱に捨てるわけにもいかず、

仕方なく持って帰った。

 

あれから数年、横に「ミツカン酢」と書かれた

そのセロテープ台を僕はまだ使っている。

 

あれ?  なんか、美談みたいな感じの

終わり方やぞ。

 

 

今回捕獲した酒モン

・迷走タイプ

・レア度・・・☆☆☆