酒モン ゲットだぜ!!

  酒を飲んでいて遭遇・捕獲した酔っぱらいのモンスター達、略して「酒モン」について綴っていくブログ

酒を飲んでいて遭遇したモンスター達について綴っていくブログです。 長編・短編・色々とございます。

店番させるおっさん 前編

千葉の幕張メッセで仕事があり、

蘇我という街のホテルに

泊まることになった。

今回はこの蘇我で捕獲した

酒モン(酒を飲んでて捕獲したモンスター)

の話であり、はじめての前・後編に渡る

壮大な2部作である。

 

その日、17時に幕張メッセでの仕事が終わり、

18時前には蘇我駅に着いた。

ホテルに荷物を置いて、すぐに外出し、

飲み屋を探した。

見つけたその飲み屋は、

ビルに入っているテナントではなく、

一戸建ての居酒屋で、見るからに酒モンが

出現しそうな匂いがプンプンしていた。

おそるおそる店に入ると、

カウンターが20席、4人掛けのテーブル席が

5つくらいあるかなり大きな店だったが、

客はゼロ。店の奥を見ると、カウンターの椅子を

10個くらい引っ付けて作った簡易ベッドのような物に

誰かが寝ている。そこには店主と思しき人が

うつ伏せで寝ころんでいて、

ビールを飲みながら、焼きそばを食べていた。

すでに18時、表にのれんを出しているのに、

この有り様。ミシュランに18つ星を

もらえるくらいの名店の予感がする。

僕の姿を見つけた店主は、起きあがり、

いらっしゃいと言った。

カウンター席に座り、生ビールが出てきて

わずか30秒後、店主は口を開いた。

「お兄さん、この店は初めて?」

「はい。そうです。」

「ちょうどよかった。今からコンビニに

 公共料金を支払いに行くから、店番しといて。」

 

え? 

いや、初めてやし、信頼ないで。

何がちょうどええんかな?

そう思っていると、店主はさらに続ける。

「あと、そこの椅子を片付けて、

    お客さんが来たら、適当な席に座らせて、

    注文も聞いておいて。」

え?  片付けもせなアカンの?

唖然とする僕の目の前に

伝票とボールペンを置き、店主は出て行った。

初めて来た街の、初めて入った店で、

いきなり1人っきりになった。

なんやこれ、と思ったが、

これもいい経験か、と開き直り、ビールを飲む。

その瞬間、店の扉が開き、

男女2人組のお客さんが入ってきた。

このタイミングでお客さんが来るんかい!

と思ったが、仕方ないので、

「いらっしゃいませー」と元気に言い、

椅子を片付け、カウンター席に案内する。

「あれ?  マスターは?

    お兄さん、バイト?」

と聞かれるが、

説明するのも面倒くさいので、

ええまぁと答えて、注文を聞く。

その時、おっさん4人組のお客さんが

入ってきた。

なんでやねん!と思いながら、

「いらっしゃいませー」と笑顔で言い、

テーブル席に案内する。

「あれ?  マスターの息子さん?」

と聞かれるが、

説明するのも面倒くさいので、

いやまぁと答えて、注文を聞く。

その時、おっさんとおばはんの

4人組の混成軍が入ってくる。

こんな店がなんで流行るねん!と思いながら、

「いらっしゃいませー」と朗らかに言い、

テーブル席に案内する。

「え?  お兄さん誰?」

と聞かれるが、

説明するのも面倒くさいので、

はい、そんな感じですと的外れな答えをし、

注文を聞く。

 

店主はなかなか帰ってこない。

僕だけ生ビールを飲んでいるし、

みんながチラチラこっちを見るし、

飲み物くらい出さないとマズいな、

どうしようかな、

昔バイトでやったことあるから

生ビールとチューハイくらいなら

入れられるから、入れて出そうかな、

と焦りだした頃、店主は帰ってきた。

すぐにカウンターの内側に入った店主は

手際よくみんなの飲み物を用意し、

僕の方を見て、

「はい、これ奥のテーブル」と言った。

え?  出すのも俺?

と思ったが、気分はもう店員なので、

ニコニコ顔で「お待たせしましたー」と

飲み物を出す。

お客さん全員の飲み物が出て、

みんなが乾杯して、一段落ついた頃、

店主がこちらに来た。

店主は満面の笑みで、

「ありがとう、兄ちゃん。

 助かったよ。これ遠慮なく食べて。」

とお皿を持ってきた。

店主の笑顔で、

なんとなく救われた気持ちになった。

だが、店主から渡されたそのお皿を見て、

愕然とした。中身は焼きそばだった。

その焼きそばは、キャベツこそ皿の右側に

整然と並べられていたが、

麺は途中でかじられたように切れていて、

見るからに食べかけだった。

 

いや、これ、さっきマスターが

食べてたやつやん!

お礼が食べかけって!

キャベツだけ整えて、小賢しいわ!

 

でも、まぁ、食べたけど。

そして、美味かった。

 

後編に続く