酒モン ゲットだぜ!!

  酒を飲んでいて遭遇・捕獲した酔っぱらいのモンスター達、略して「酒モン」について綴っていくブログ

酒を飲んでいて遭遇したモンスター達について綴っていくブログです。 長編・短編・色々とございます。

ヴィトンのおっさん

名古屋まで古着を買いによく行く。

当然、そのついでに飲みに行くので、

名古屋での

酒モン(酒を飲んでて捕獲したモンスター)の

捕獲数もけっこうある。

その中でも、かなりインパクトがあったのが、

ヴィトンのおっさんだ。

 

ある時、16時くらいから飲もうと思い、

大須商店街にある飲み屋に入った。

L字型のカウンターだけのその店は、

おっさんでほぼ埋まっていた。

土手煮でビールを飲んでいると、

あるおっさんが切り出した。

そのおっさんこそ、後にヴィトンのおっさん

として世を震撼させるおっさんであるが、

この時はまだ知る由もない。

「俺は若いころから今まで、

   財布はずっとヴィトンのものを使ってきた。

   だから手で触っただけで、

   本物か偽物か分かる。」

おっさんが声高らかに豪語する。

店内の一同がざわめく。

別のおっさんBが

「本当か? なぜ分かるんだ?」

と聞くと、

「経験上、皮の手触りと重さで分かる。

   だから、目を瞑っていても、

   持ったら分かる。」

とヴィトンのおっさんは自信ありげに回答。

 

すると、また別のおっさんCが

「よっしゃ、俺の財布はヴィトンだ。

   本物かどうか、見分けてくれるか?」と

言いだした。ヴィトンのおっさんは、

目を瞑って手を出し、財布を受け取る。

「役人の子か!」

と突っ込みたくなるほど、

渡された財布をニギニギした後、

ヴィトンのおっさんは、

「これは本物だ!」

と力強く宣言。

おっさんCは「正解!」と驚く。

店内の一同も驚く。

 

よく考えたら2択だし、

ええ年したおっさんが

わざわざ偽物のヴィトンの財布を持っている

確率など低いのだが、

その時は、小さい店の外に「おぉ~っ!」と

いう感嘆の声が漏れるほどに、

盛り上がっていた。

ヴィトンのおっさんは

「他にないか? 他?」と

江戸時代の長半博打の胴元みたいな感じで、

周りを見渡す。

目が合ってしまった僕は、

「じゃあ、僕の財布、いいですか?」

と言うと、

ヴィトンのおっさんは

それを合図に目を閉じる。

僕の財布はヴィトンではないので、

目の前にあったおしぼりを丸めて渡した。

僕は、持った瞬間に

「なんだよ、これ! おしぼりだろ!」と

おっさんが言うと思っていた。

そこで、一同に笑いが起きると信じていた。

横のおっさんBとCもその場面を想像し、

ニヤニヤしていた。

だが、現実はそんなに甘くはなかった。

僕が手渡したおしぼりを、

さっきのように執拗にニギニギしている

ヴィトンのおっさん。

しばらくニギニギした後、こう言った。

「兄ちゃん、これも本物だな」

 

「えぇ~!」

さっきよりも大音量の声が、

店内、そしておそらく店外まで響く。

ヴィトンのおっさんが得意げな表情で

目を開け、自分の手を見る。

そこには丸めたおしぼりが。

「兄ちゃん、これは人が悪いよ・・・」

おっさんは悲しそうに僕を見た。

 

でも、手触りタオルやし。

メッチャ湿ってたし。

丸い筒状やし。

 

色々な理由を付けて

「分かるやん」と言いたかったが、

おっさんのその悲しげな

親を殺された草食動物のような眼を

見てしまった僕は

「なんか…すいません…」

と心から謝罪した。

 

今回捕獲した酒モン

・悲哀タイプ

・レア度・・・☆☆☆☆